結論から先に言わせてもらおう。 心にグッと来るアルバムだ! 風味堂のピアニストでもあり、ヴォーカルを務める渡 和久のソロ・アルバム「東京ブルー」が6月23日にリリースされた。 夜明け前の青を感じさせるようなセンシティブなピアノの調べと、都市に暮らす孤独感や葛藤を描いた1曲目の「戦い続けるのさ」でアルバムの幕を開ける今作は、風味堂でのプレイとは違った一面を見せるピアノと、時に内省的だったり陰影のある表情を見せたりする歌詞の世界観と相まってソロならではの渡自身のパーソナルな部分に迫る作品となっている。 一見すると内省的な部分が目立つ作品になるのではないかと思いきや、彼ならではのハートフルな部分は相変わらず健在だし、デキシーランド・ジャズのテイストを持った「あぁ、今よ」や、即興的な演奏でスリリングな展開を見せる「Escape!」、ジャジーでロマンティックな「今夜は優しい夜だから」などバラエティに富んだサウンドで耳の肥えたリスナー達にも堪能出来る上質なアルバムに仕上がっているのだ。 そして今回はゲスト・ミュージシャンにBuffalo Daughter、Black Bottom Brass Bandを始め、ドラムに中村達也(LOSALIOS)・玉田豊夢(100s)、ベースに山口寛雄(100s)など、名うてのミュージシャン達を迎えている点にも注目だ。 彼のソングライターとして、そしてプレイヤーとしても新たな一面と可能性を感じさせる1枚。 ◆プロフィール◆
■渡 和久(KAZUHISA WATARI)
1977年10月31日生まれ 福岡県出身・B型 ピアノトリオバンド風味堂のピアノボーカルとして、2004年スピードスターレコーズよりメジャーデビュー。 風味堂の全ての作詞作曲を担当。 TVで観たオスカーピーターソンの演奏姿に衝撃を受け、18歳の時に指一本から始めて本日まで独学のピアノ奏法。 唯一無二のヴォーカルで胸打つ“うた”と、音楽的な完成度の高い楽曲が数多の出会いを呼び、今日に至る。 |
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――6月23日に待望の初ソロ・アルバムが「東京ブルー」がリリースされますが、まずはアルバムが出来上がった現在のお気持ちから教えていただけますか?
渡:結構レコーディングからライブでやりやすいようにっていうのを想定して、あんまり無理しないっていう作り方をしたので、出来上がった時にはこの感じだったらすぐにライブが見えるなって、早くライブがやりたいなっていう感じですね。
――そうなんですね。
渡:今回はあまり無理をしない(笑)、背伸びしないというか、自分の手癖とかワー!スゲー!スゲー!みたいなのはあんまりやらないというか、自分の身の丈に合った音楽のやり方っていうのを、ちょっと意識していたので、出来上がったらもうすぐに早くライブでやりたいなって思いましたね。
――まずライブっていうところもあったと思うんですけれども、いつぐらいからソロをやってみようかなとか考えていたりしたんですか?
渡:うーん、そうですね。最初はあんまり思わなかったんですけど、「風味堂4」を出して、その時にバンドで出来る限りの引き出しというか、そういうものを出し尽くした感じもちょっとあったんですね。
何となく新しい知識とかそういうのを入れないとダメだなみたいなふうに感じたのは、「風味堂4」のアルバムが終わって、そのツアーをやって終わった後ぐらいですかね、去年ぐらいかな。
――「風味堂4」はとても華やかなアルバムでしたよね。進化してやれるところまでやったというのはあったのかもしれないですね。
渡:そうですね、実は「風味堂3」を制作した時には、プロデューサーを立ててガッツリやって、こういうのもある、あぁいうのもあるっていうのを一回やったんですけど、その時にちょっとJ-POPの王道を狙いすぎて音数がちょっと増えたかなという感じだったので、「風味堂3」を完成させた段階で、やっぱりもうちょっとバンド色がほしいねっていうことで「風味堂4」を作って、それも終わって、今度はどうする?っていう形になったんですよね。
――じゃあ、そこで敢えてソロっていうのも有りですよね。
渡:もちろんそれでまた新しい見え方をして、おっ、じゃあ聴いてみようかなっていう人達が現われてくれると、それはすごい嬉しいんですけど、それもありつつも個人的に修行をするというか、別のミュージシャンと一緒にレコーディングをしたりツアーをやって、あっ、こういうやり方もあったなみたいなのを新しく得ることが出来れば良いなっていうのが、結構デカイです。
――なるほど。今回のソロ・アルバムを聴かせて頂いて、まず最初に1曲目の「戦い続けるのさ」でビックリさせられたんですよね(笑)。
渡:はい(笑)。
――たぶんそれは前から感じていたことではあったんですけど、今まで風味堂の中では見せていなかった面がすごく出ていたので、まず1曲目のタイトル「戦い続けるのさ」の“戦う”っていう言葉とかは今まで出て来てはいなかったですよね。
渡:うん、そうですね、確かに。
バラードの曲の時は大体、恋愛モノが多かったので、しっとりした曲だけど何かちょっと違うもの、今回は特に孤独感っていうか、一人でやるっていう気分になった時に、どういう歌詞を書こうかなっていう時にやっぱり孤独がピッタリだなと思って。
――アルバムのタイトルが「東京ブルー」じゃないですか、でもアルバムの収録曲には「東京ブルー」っていうタイトルの曲がないので、どうしてなんだろうな?って思っていたんですが、でも1曲目の「戦い続けるのさ」の歌詞にシンクロしているのかな?っていうのは思ったんですよね。
渡:東京に出て来てからの自分っていうのにちょっと向き合って書いたつもりなんですよね。
何となく自分の癖なのかわからないんですけど、福岡にいた時と今の東京にいる自分っていうのをよく比べる歌詞というか、あの頃はこうだったけど今はこうだみたいな歌詞をよく書いてはいたので。
ただ以前の歌詞は今は今でこうなってしまったけど頑張ろうみたいな、プラスにプラスに積み上げて行こうっていうやり方だったんですけど、今回はどちらかっていうと、いやまぁ、頑張ってもどうしようもないっていう(笑)、マイナスに捉えた中からの、でもやるしかないねみたいな感じ。
――全曲の歌詞を見せて頂いて思ったのが、渡さんのパーソナルな一面というか内省的な部分が色濃く出ているなっていう感じがしたんですよね。そこで否定的な言葉で綴られている時もあるんだけれども、でもやるしかない(笑)っていうか。
渡:そうですね(笑)、どうしようもないみたいな。
東京って止まれない街のような気がして、特に田舎の方から出て来て思うんですけど、なんかやり続けてないとそこに居る意味がないような気がして、それがないんだったらもう帰った方が良いし、そういう息苦しさとか、いつも競争している感じというか。
それでトップに行ってもキツイし、ビリでもダメだし、真ん中ぐらいにずっと居続けなきゃいけないような苦しさとか、そういうのは今回ちょっと入っていますね。
――なんか大人な一面が(笑)。
渡:イヤイヤ、大人というか少し疲れてる感じなんだと思うんですよね(笑)。
――(笑)。
渡:くたびれ感が(笑)。
――そんな、まだ若いのに(笑)。風味堂ならではのハツラツとした楽曲も、そして渡さんのソロの内面を出している作品っていうのは対照的だけど、どっちもあって良いと思うんですよね。
渡:そうですね。実は「ナキムシのうた」の頃から“大丈夫!頑張ろう!”みたいな感じで書いてた割には、実際には自分はそういう人間ではなくて、その歌詞っていうのは理想の状態をただ書いていた気がするんですよね。
自分がこうあれれば良いなという感じで前へ前へ向かって行こうっていうのも、そういう歌があったとしても、それを自分がそうなんじゃなくて、そうなれたらなって。それをただ今回は、でもそうはいかないっていうのを文字に書き表したんです。
――前は自分に言い聞かせていたという感じなんですかね。
渡:そうですね。すごくそれが強かったかもしれません。
――素直になった分、自由度も上がった感じですか?
渡:そうですね、こうじゃないといけないっていう考え方はあんまり無くなって行ったかな。
前はサビですごく良いことを言わなきゃいけないだとか、やっぱり最後はハッピーエンドじゃないといけないとか、ちょっと美しいものじゃないといけないとか、そうことばっかりを意識をしてたんですけど、今回はダメなものもとにかく、救いようなんてないですよ、ないけどちょっと今夜だけこうしようかとか、そういうイメージですかね。
――個人的にこういうアルバムは有りだなと思っていて、意外と年代が上の人というか大人になってしまった人って、いろいろとわかってしまっているじゃないですか。頑張らなきゃってわかってるけど、そんなこと言われても、ちょっとシンドイよねっていうところで、こういうアルバムを聴くと、渡君はそう思ってるんだなって、自分もちょっと頑張ろうかなって思えるような作品なんじゃないかなっていう気がしますね。
渡:歌っていうのはやっぱり夢があって、ムチャクチャ綺麗なストーリーがあって、そこに対して憧れるから良いものっていう捉え方もすごく正解だと思うんですけど、貧しい人がいて、自分よりも貧しい人がいるって思ったら頑張れるっていう(笑)、人間ってそういうところもあるじゃないですか、だからものすごい絶望を歌ってて、あ、こんなヤツもいるんだ、まだ自分はイケる、イケる(笑)っていう捉え方でも良いので、この曲では大丈夫さーっていうよりは、こんなことを歌ってる人もいるんだから自分も頑張らなきゃなぐらいに、もし共感してもらうとしたら、そういうふうに捉えてもらうとすごく良いなとは思いますけどね。
――決して押し付けがましくないし、渡さんはそういうふうに思っているんだっていうように一意見として解釈出来ますよね。
みんなで頑張ろうよ!って言っても頑張れない時って大人になって余計にありますよね。逆にそういう意味で励まされたりするんじゃないかなって思いますね。
渡:そうですね、はい。
――今回の歌詞っていうのは以前からずっと書き溜めていたものだったりするのですか?
渡:去年の夏ぐらいかな、それぐらいから何となくは書いていてっていう感じですかね。
――じゃあ、結構最近な方なんですね。
渡:そうですね、もうこのアルバムの世界観っていうのを意識して何となく書いていた感じですかね。
風味堂の頃はアルバム・コンセプトっていうのはなかったんですね。
1曲1曲がもうぶつ切りで、それをじゃあ、どうパッケージにするか、それが風味堂の今の記録だということで、アルバムタイトルを付けずに風味堂2、3、4っていう感じでやってたんですけど、今回は何となくアルバムの世界観っていうのが頭の中にあって曲を書いたから、どれも共通した色があるというか、そういった感じの書き方ですね。
――歌詞を読んで渡さんの内面に興味が出た気がしますね。もっと知ってみたいというか。ファンの方はよりそう思うんじゃないですかね。
今回は楽曲に関して作られるにあたって心掛けた点などはありましたか?
渡:まず曲自体は風味堂の頃とそんなに変わってないと思うんですよ。大きく変わったとしたら歌詞だと思うんです、それ以外は例えば今回出来た作品も全部、風味堂にも戻った時に普通に風味堂でもやると思うんですね。
あんまりソロとバンドの垣根はないような感じで、ただ今の時期だからちょっとこういった世界観で書いてみようっていうぐらいで、基本的にはあんまりないっちゃないですかね。
でも昔よりもフレーズは少なくなったかもしれないですけどね。
もうちょっと削ぎ落としたっていうか。
――個人的にはアルバムの冒頭のピアノの音がビックリしたんですよ。どっちかっていうと今までライブとかで聴いていて、パーンってした音という印象があったんですね。ドライブ感のあるピアノで。
渡:今までのは1曲目に来るのが大体アッパーな曲が多かったんで、それは今回はやらないようにしようというか、曲順も結構ギリギリまで悩んで、もっとリズムのあるものを1曲目に持って来るのも一つのアイデアとしてはあったんですけど、やっぱり1曲目の印象ってデカイじゃないですか、だからこういうアルバムだよっていうのは表現したかったので。
――やっぱりメチャメチャ明るかったら延長線上だったかもしれないですよね。
渡:そうですね。1曲目は大事ですよね。
――ワー!って思ってしまって(笑)。
渡:ハッハッハ、暗いー!みたいな(笑)。
――暗いとかじゃないんですけど(笑)、でも夜明け前だからこの後で陽は射すんでしょう?とは思いましたけどね。やっぱりピアノの音が違っていたので敢えて違って弾いたりしていたりするのかな?とは思いました。
渡:イメージはもっと細いっていうか、ガツッ!と弾くっていうよりは、コーンって少ない音符の量、普通はピアノってもっとジャーンって完璧にコードを流すことばかりやって来てたんですよね。
今回は鍵盤を押さえる指が二本ずつぐらいの、少ないものから始めてみようみたいなイメージはやっぱりありましたね。
――それが決定的にソロとしての差別化じゃないですけど、アルバムを聴いて、あぁ、渡さんとしてのソロ・アルバムなんだなっていうのを実感したというか、そしてこんなピアノを弾くんだなっていうのはビックリしたんですよね。
他の曲でもすごく柔らかく弾いてる曲があって、風味堂の曲の時でも柔らかく弾いている曲はあるんですけど、やっぱり確実に何かが違うような来がしたんですよね。
渡:例えばピアノだけが弱くて歌が今までと同じだとちょっと歌が浮くかなと思って、歌い方もちょっと変えて、少しトーンを落としめで歌わないといけないとか、そういうのも出て来るんでしょうけどね。
――なるほど、以前から渡さんはきっとジャズを弾いたりしてるんだろうなって思ってたんですが、今回のアルバムの中にはジャズ寄りな楽曲とかも弾かれたりしてるので、やっぱりこういうの好きなのかなって思いましたね。
渡:ピアノを始めたきっかけがやっぱりジャズに憧れたところがあるので、ただ普通にジャズをパーッと出来るかっていうと、僕はアドリブとかあまり出来るほうじゃないので、それっぽいものを作るぐらいしか出来ないんですよ。
――でもとても歌に曲に声に合っている気がしますね。今回って参加されているミュージシャンも結構有名な方が多いんですよね。
渡:そうですね。いろんな方が(笑)。
――いろんな音が聴こえる(笑)。
渡:はい、そうですね(笑)。
――今回、この方々と一緒にやろうと思ったのはどういうところからだったりするんですか?かなりたくさんいらっしゃいますよね。
渡:やっぱり曲が求めるタイプのミュージシャンかなと思って、Black Bottom Brass Bandだったら、もうこれは絶対、Black
Bottomだーって曲が出来た時に思ったので、もう単純にお願いをして、Buffalo Daughterだったら、やっぱりちょっと尖った感じで、普通のジャズをぶち壊してくれると思ったので。
それがどうなるんだろうってみんな予測がつかなかったんですけど、LOSALIOSの中村達也さんのドラムでちょっと破壊的なというか(笑)、その感じが出てくれたというか。
あとリズム隊は単純に上手い人が良いなと思ったんですね、細かくて上手い人というか、それで豊夢(玉田豊夢)さんと寛(山口寛雄)さんにお願いしたんです。
――みなさん、それぞれ全然違和感なくプレイしていらっしゃる感じに聴こえますよね。
渡:そうですね。
――先日のライブを拝見させて頂いて、アルバムの参加メンバーとは違いますけれども、こういうサウンドはカッコイイなぁと思って見てたんですよね。
渡:そうですね。ライブのメンバーは人間的にすごいとっつきやすいっていうか、コミュニケーションがすごい取りやすいんですよ。
だからもうソロ・プロジェクトと言っても、もう1つのバンドのようにライブが出来れば良いなっていうイメージですかね。
――これからいろいろ回るじゃないですか、だからどんどん良くなって良い感じになるのかなっていう気がしましたね。
渡:そうですね。まだサポートの方達はステージ上に出るとあんまり喋らないんですよ。
――そうなんですね(笑)。
渡:そうなんです。裏ではすごい喋る人なんですけど。
だからもっとほぐさないとダメだなと。
――オズオズとしてますものね。
渡:そうですね、マイクから離れてボソボソ喋ったりしてるところがダメなんですね(笑)。
――じゃあ、終わる頃にはみんなすごい喋ってますね(笑)。
渡:もうガンガン喋るぐらいに(笑)。
――そうですね(笑)、今回のアルバムに収録されている曲の中で個人的に一番ビックリしたのが「Escape!」なんですよね。
渡:うんうん、まぁ、一番ちょっとある意味浮いてる曲だと思うんですけど、歌詞もちょっと変だし(笑)。
――ちょっとシュールなんですよね、近未来というかSFチックな感じというか。
渡:そうですね(笑)。
――でも言いたいことの根底はそういうことなのねと思いつつ(笑)。
渡:アッハッハ、あれは曲を書いてて、全然曲が出来ない時期に、もう頭を掻き毟って、ホント出来ない、もう書けない、ムリムリっていう状態の時に、どうしよう、どうしようってヨメさんにどうしようかって言ったけど、「出来るよー」って他人事みたいに言われたんで(笑)、ダメだもう頼れる人は一人もいないっていう気分を書いた曲なんですけど。
最愛の人ですらアルミニウムになってたって(笑)、みんなもうダメだみたいな気分になって書いた曲ですかね。
いやもうホント逃げ出したいっていうか、そういう感じで。
――だからあんな切羽詰った感じに聴こえるんですね。
渡:そうですね。あと中村達也さんのドラムなんですけど、あれはまだ曲の構成を覚えてない状態で叩いてるんですね、もうワンテイクめで。
だからもう次どっちだ!次どっちだ!みたいな感じでやってるからすごいスリリングというか、予想していないフレーズが出てくるという。
――あれは一発で曲を印象付けた感じですね。
渡:(笑)、そうですね、かなり変わった感じで(笑)。
――今までこんな曲なかったなと、あと“アルミニウム”って言葉も・・・。
渡:初めてですね(笑)。
――そんな裏話があったとは(笑)、その一言でこんな良い曲が出来るなんて言っていただいて逆に良かったですよね。
渡:(笑)、助かりましたけどね。
――今回そういう言葉だけの曲だけなくて柔らかい曲とかも入っていて、8曲目の「あぁ、今よ」も個人的にとても好き曲なんですよね。
渡:これは書いてて、何て言うのかな、結局何が言いたいかっていうのはわからないんですけど、自分勝手な考え方だとか、今よ早く来てくれっていうのと、早く出て行ってくれっていう、ちょっと矛盾した自分の心情っていうのを恋愛になぞらえて書いたんですね。
――洒落てるなって思いましたね。そういう考え方も出来るよねっていうところもあったし、サウンドもこれはデキシーランド・ジャズって言って良いんですかね?
渡:そうですね。
――そういうちょっと陽気なサウンドになっていますよね。
渡:この曲は今回のアルバムの中では何ヶ所かリラックスする場所というか、ちょっと楽になれる場面もほしいなと思って、そういう役割を持っているのがやっぱりBlack Bottom Brass Bandだなと、そういう意味もあってBlack Bottomさんと一緒にやったんですよね。
――これもライブで聴くとすごい良いですよね。
渡:そうですね。なんかこうノリが気持ちが良いというか。
――最後は悲しいお話になっちゃいますけど楽しく聴ける曲ですよね。
渡:そうですね、ちょっとコミカルなイメージというか。
――今回のアルバムではすごく印象が違う曲もありますが、ちゃんと今までの渡さんのらしいところもあって、そこはちょっと安心したりするというか。あまりにもすごい変わっちゃったりするとちょっと不安になっちゃったりしますものね。
渡:あっはっは、まぁ、そうですね。
――でも6曲目の「今夜は優しい夜だから」は渡さん的な「ナキムシのうた」という感じなのかなという感じもちょっとしたんですけれど。
渡:「ナキムシのうた」はもっといろんな人に言っている感じなんですけど、「今夜は優しい夜だから」の方は1対1というか、今回はあんまり大人数が登場するような曲があんまりないかもしれないですね。
1対1か完全に一人か、ちょっと少人数制な感じというか。
――確かにそうですね。だからパーソナルな感じがするんですかね。
渡:そうですね、ライブのこととかもちょっと考えて、4曲目の「a song of true hearts」
っていう曲だけはみんなで共有出来れば良いなって曲にはしたんですけど。
今度は楽器の数を減らして、ほぼ弾き語りとクラップだけみたいな、どこかで一人っていう要素はほしいなと、そういった感じですね。
――今回のアルバムは9曲収録で最近のアルバムから考えると曲が少なめだったりするんですけれど、バランスがとても良い感じがしますよね。このアルバムはいつも風味堂を聴いていない人にも聴いてほしいなと思いますね。
渡:そうですね、むしろ風味堂ファンっていうよりは全く風味堂を聴いたことがない人に聴いてもらえると、それが次の風味堂に繋がる気がしてて、これはちょっとビジネス的な考え方かもしれないですけど、風味堂っていう名前じゃなくて渡 wataryっていう名前で知ってもらう人もいっぱいいてくれて、そして風味堂というバンドをやってるんだって、あとでそれが繋がってくれたらすごい嬉しいなと。
――みんなが一回パーッと出払って、それぞれが持ち物を持って帰ってくる感じというか(笑)。
渡:うん、ちょっとこう釣りに行って、漁師みたいなというか、それでいっぱい釣って来たみたいな。
――そうですよね。ではこのアルバムの中で一番込めたかった想いというのを教えて頂けますか?
渡:うーん、そうですね。風味堂の時のイエーイ!っていう自分よりはこっちの方が自分っぽいというか、自分はこんな感じですというか、例えば昔は「クラクション・ラヴ」とか、あぁいうカモーン!って言ってコール&レスポンスして、じゃ、行くぜ!って言ってガン!ってやる自分もいたんですけど、やっぱり正直なところ本当の自分の個人的な性格を作品に出すなら、このアルバムが一番、入ってるかな。
本当はもっと暗いものも書こうと思ったら書けるんですけど、これぐらいの自分です、こういう人間ですっていうのかな。
――個人的には将来的には風味堂もやってソロも継続してやってほしいと思うんですよね。だから今後ももっとドロドロした面とかも見せてもらって良いんじゃないかなと思いますね。
渡:そうですね、両方がライブでも出来て、風味堂のライブの中にもこの渡 wataryの世界があっても良いかなと、いずれはそういうふうになれたら良いなと。
――そうなるときっといろいろなものが広がりますよね。今回はレコーディングで苦労した点などはありましたか?
渡:1つは歌のニュアンスかな、やっぱり。
ピアノが前よりもちょっとか細く弾いてるとこに合わせるのが、調節がちょっと難しかったところとかですね。
ピアノがコーン、コーンって繊細に弾いてる箇所に対して弱く歌うと音程を合わせるのが難しいとか、そういうのがあったりとか、もう1つはクリックを使わない部分のレコーディングなんですけど、これは自分が大変っていうよりはサポートの人が大変でしたね。
例えば「今夜は優しい夜だから」は前半と後半にリズムがあんまりない部分があるんですけど、そこの部分は最初に自分がピアノを弾きながら、弾き語りで♪星たちも〜
眠りに〜 つくほどの〜♪みたいな(笑)、弾き方をしてて、それに対してあとでリズム隊の人に合わせてもらって。
結構、おっ!おぉ!来た!みたいな(笑)、ちょっとかなり難しいレコーディングでしたね。そういうところはちょっと難しかったです。
それ以外は・・・あとはなるべくシンセとか打ち込みとか、なるべくそういう要素は入れないで持つようにしたかったので、必要最小限に楽器の数を抑えてっていうところの判断はすごい難しかったです。
ここでシンセを入れてしまえば絶対華やかになるし雰囲気は出るんですけど、それだとライブとはまた変わってくるので、あんまりライブで同期を使いたくないっていうか、なのでそこですかね。
――だからサウンドが生っぽい感じなんですかね。
渡:そうですね。でもその生臭いというか、はい、生々しくて、はいはい、こんな感じねっていうよりは、音自体は綺麗にしたかったというか、上質な音で生演奏をやっている感じですね。
――なるほど。
渡:例えばもっとコンプとかでグアーッってなる感じっていうのも出せたんですけど、そうじゃないなっていう。
なんかこう本当に楽器に対して誠実なミックスとかをして、普通に何も奇をてらってないというか、そういうイメージのレコーディングだったんで、素直にやる感じですね。
――人間臭いけどでも品のある感じですよね、下世話になってないというか。
渡:そうですね、「風味堂4」の時にかなりいろいろやったんですよ。
ディレイがぶわーって入ったり、ピアノで刻んでるけど、ローズ・ピアノを重ねたりとか、小技をかなり入れたんですよね。
それはそれで1つの色としてはあるんですけど、もっとなんか楽器の音だけで何もいじらないみたいな、そういうのをちょっと今回はやろうかなという感じですね。
――個人的にはこのサウンドはとても良いなと思いますね。
渡:ありがとうございます。
――今後ももっとそういうのを聴いてみたいなっていう気がしましたね。そして今回は初回盤にはライブ盤が付くんですよね?
渡:ライブ盤付いてますね(笑)。
付いてるんですけど、まだ人前でライブをやって何回目かぐらいの、しかも弾き語りなんで、まだまだ下手くそなんですよ。
どうしよう、これ入れようかな、入れまいかなみたいな、本当にそれぐらいのクオリティなんで、ちょっとまぁ、特典として付けるにはお恥ずかしい感じなんですけど、まぁ、記念に(笑)。
――それはある意味レアですよ(笑)。
渡:(笑)、うん、MCもちょこっと入ってたりもするんで、ライブの雰囲気は味わえるかなというぐらいの。
――ファンの人はそれもちゃんとマストとして手に入れていただいて(笑)。
渡:まぁ、そうっすね、是非・・・(笑)。
――何だか照れていらっしゃる感じですが(笑)、ライブ音源を聴いてライブに行こうと思う人もきっといるでしょうしね。
渡:そうですね、是非そういうふうに捉えてもらえれば嬉しいなと思いますね。
――あと7月からライブを行われるんですよね。
渡:はい。
――こちらのライブの抱負も語っていただけますか?
渡:今回は本当に背伸びしないで自分らしい喋り方とか、自分らしい空気感でライブをやりたいので、楽に楽しんでもらえたら良いなというか。
僕もそうだし、それをサポートしてくれるミュージシャンもそうだし、楽で居心地が良いような空間を作れたら良いなと思います。
――先日のライブも良い感じでしたよね。
渡:(笑)、そうっすね、ユルユルな(笑)。
――でもあれはあれでとても良かったと思いますよ。
渡:そうですね、あぁいうイメージですね。
なんかこうMCも独り言みたいな(笑)、「まぁね、良いけどね」みたいな(笑)、なんかその感じで行こうかなと。
――アルバムを引っ下げてライブもやっていただけると。
渡:はい。
――では最後になりますが、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
渡:風味堂を知っている方も知らない方も渡 wataryという、こういう感じの人がいるんだなって思ってもらえれば、そして楽に楽しんでもらえるアルバムだと思うので是非聴いて下さい。
――ありがとうございました。
渡:ありがとうございました。
(text by takahashi)