渡辺美里というアーティストほど、歌に対して真摯な姿勢を貫いているボーカリストはいない。
時にはがむしゃらに、時には不器用なほどの正直さで、いつの日も彼女は真正面から歌と対峙し続けて来た。 だからこそ渡辺美里の歌は長い年月を多くの聴き手に愛され続けて来たのだと思う。 今年デビュー20年目を迎え、この夏、連続20回を記録した西武ドームでのライブも大団円で幕を降ろし、我々の心に数々のドラマティックなシーンを残してくれたことも記憶に新しい。 今回はアルバムの先行シングルとしてリリースされた「トマト」の槇原敬之を初めとして、GLAYのTAKUROやコブクロの小渕健太郎、オセロケッツの森山公一、そしてデビュー当時から彼女の作品を手掛けて来た大江千里、木根尚登など、彼女の歌を愛し続けて来たアーティスト達による、ボーカリスト渡辺美里への愛がめいっぱい込められた楽曲達が肩を並べている。 日本のミュージックシーンの第一線をトップランナーとして走り続けて来た、今の彼女だからこそ歌える歌、そんな楽曲である11曲が収められているのだ。 心にそっと音の蕾を抱くような胸に沁みる「メロディ」、美しくエレガントな雰囲気を醸し出した「Kiss from a rose」、そして元気で前向きな歌詞とサウンドがまさに10代からの渡辺美里の楽曲を象徴するような「MUSIC FLOWER」と、しなやかにそして着実に前に進み続ける彼女に相応しいそんなアルバムに仕上がっている。 今はまだ夢のあいだと語る彼女の真っ直ぐな瞳は、デビューした頃と変わらずあの日のままだ。 様々な色合いに美しく花開いた11輪のバラ達。
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http://www.misatowatanabe.com/ ◆渡辺美里 プロフィール◆ ボーカリスト。66年7月12日、京都生まれ。 |
――デビュー20周年おめでとうございます。
渡辺:ありがとうございます。
――今年を振り返ると美里さんにとって今年はどんな一年でしたか?
渡辺:すごく充実してましたね。まず2004年の12月31日から1日と、2005年のスタートの日に長崎でカウントダウンのライブをやってたんですね。
4万人位のたくさんのお客さんが参加してくれて、2000発以上の花火と共に2005年20周年おめでとうー!ってイベントだったんですけど、勝手に(笑)、私を祝ってくれてるわって。
これから2005年のV20の幕開けだ!っていう感じのライブで始まって、そのライブをしつつ、スタジアムの準備とか季節の歌・・・、オリジナルの世界とはまた別の昔からある歌、ポップス、歌謡曲、童謡、ジャンルを問わずに良いなって思える曲をカバーするっていうコンセプトで「うたの木シリーズ」っていうのを作っていて、ずーっと歌ってましたね。
――ライブで始まり・・・。
渡辺:ライブで始まり、またレコーディングに突入して・・・。この曲をどういうふうに歌おうか、どんな感じに仕上げようかって考えながらのスタジオでの日々も、毎日が大きなイベントだと思って緊張感と集中力を持ってやってきて、それがずーっと続いてましたね。
そしてベスト盤の「M・Renaissance〜エム・ルネサンス〜」っていうファンの方からリクエストしてもらった中から選んで作った3枚組のベスト盤を作り、そのジャケット撮影だとか、同時に今回の「Sing
and Roses」のレコーディングをやりながら、スタジアムライブの準備もやってライブを迎え、それが終わってから「Sing and Roses」を完成させて、同時にオーケストラのライブをやって今に至るので、ずーっとほんとに歌うことをエネルギーにして回って来たっていう感じですね、特に今年は。
――すごい充実ですね。
渡辺:すごく充実。去年からそんな予感がしてたっていうか、長い長いイントロっていうか・・・、2004年もすっごいコンサートがいっぱいあったんですね。
1年に4種類ぐらいの内容の違うものをやったりしたので、1つのコンサートを仕上げるのも、結構時間がかかるんですけど、内容を全部変えて4種類ってなると、またギアを入れ直す感じで・・・。
2004年からそれがずーっと続いているので、良い意味で加速しながらターボが入った状態が、今の2005年かもしれないですね。
――フル回転ですね。
渡辺:回転してますね。
――お休みとかはあったんですか?
渡辺:お休みは西武ドームが終わって、お仕事をいろいろやってから1週間、NYに行って。
もう一回ちょっと歌の勉強をし直そうと思ってボイストレーニングに行き、ついでに今までレコーディングで行くとなかなか出来ない観光を(笑)、NY観光を少ししてっていうのが1週間ありました。
――でもやっぱり歌の勉強にって感じなんですね(笑)。
渡辺:そうですね(笑)、どうせ遊ぶんだったらなんか身になることをしたいって、時間がないからこそかもしれないんですけど、充実させたいなって思って。
ノンビリはしてないかもしれない、だけど自分の中では結構、動き回ったけどノンビリした気になったんですけどねー。完璧にワーカホリックですね。
――じゃあ、まだ日にちは残っていますが、今年は良い一年でしたね。
渡辺:はい、このインタビューが出る頃はもう始まってると思うんですけど、ツアーが11月20日から始まりますしね。
――一年間、フルパワーで駆け抜ける感じですね。
渡辺:そうですね。
――それではアルバムのお話をお伺いしようと思うんですけど、今回のニューアルバム「Sing and Roses」はどんな作品に仕上がったと思いますか?
渡辺:じっくりと、たっぷりと長いお付き合いが出来る・・・、昔、ウィスキーのコマーシャルで「ちょっと愛して、長く愛して」っていうのがありましたよね。それに匹敵するようなというか、じっくりゆっくり付き合って行ってもらいたいパートナーのようなアルバムに仕上がってると思いますね。
――しっとりとしてでも、その中には強い想いとか志が込められたアルバムだなと、聴いていて思ったんですよ。
渡辺:志を強く想ってるかどうかは自信がないんですけど(笑)、でも何かを伝えたいとかその1曲、1曲のテーマっていうのは明確にあって、それが意志の強さになるかどうかはわからないんですけど、不器用だけど前向きに生きたいと思っている、決して投げやりだったりとか「ま、とりあえず」みたいな感じではない登場人物が11人出て来るアルバムにはなってますね。
――今回のタイトルの「Sing and Roses」はどんなところから名づけたんでしょうか。
渡辺:私のボーカリスト人生というか、ほんとに今年だけに限らず、まさにずーっと“歌”っていうことを真ん中に置いて、人と出会ったり、また自分自身のエネルギーになって・・・、一番自分らしくいられる状況こそが「歌うこと」であったりするんですけど。
その“歌”を通して人と出会ったり、曲と出会ったり、長く付き合って行ける人達だなぁって思ったり。サックスの山本拓夫さんは、スタジアムライブ17回出演なんですって。
――そうなんですか!!
渡辺:「俺、何気に数えたら17回なんだよ」、「最多出場だね(笑)」って。 でもそうやって、この流れや浮き沈みの激しい世界で“歌”っていう事によって、それだけ繋がっていけてるっていう事がすごく嬉しかったり、また感謝出来ることだなぁって。
そしてその節目の20年を終えて、次にどんなふうに歌って行きたいかなって思った時に、今までなかったことにみたいなことじゃなくて、やっぱり1個1個、1年、一瞬・・・、一瞬があるからこそ、今の歌があると思うし、これからがあると思うから。
あと、アルバムを作ったりコンサートのツアーが始まる時なんかに、タイミングが合えばお花の種とか球根とかを植えてきたんですね。ふと気づくと全く何も手入れしてないのに前に買った水仙の球根がニョキッと出て来てたりとか、クロッカスとか葉っぱが立ってたりするんです。そういう生命力を持ったものがいくつもあって、その中の一つにバラの鉢植えがあって、そんなに手入れしてなくても、ちゃんと芽が出て葉っぱがついて・・・今年は特に綺麗に咲いたんですね。
これもまた20周年を祝うが如く、いつもの年よりも華やかに咲いてくれたんで、これを何かの形に出来ないかなと思ってた時に、まさに“歌とバラの日々”って良いかもって思って。
「酒とバラの日々」っていう昔の映画があるんですけど、“酒とバラの日々”よりは“歌とバラの日々”の方が、私の人生には相応しいなと思って。歌い始めてまだ、たった20年ですけどね。また今回いろんな方達に曲を書いてもらって、まさにマッキーがこれからの美里さんにっていう感じで一輪バラを差し出すように曲を提供して下さったものが、そして大江千里さんとか木根さんとか、TAKURO君とか・・・、それぞれの人達が今の美里にはこのバラが良いよっていう感じで、1曲1曲をバラに例えて「Sing
and Roses」っていうタイトルにしました。
――なるほど、そういうエピソードがあったんですね。今回のアルバムは楽曲が豪華なアーティストな方から提供されていて、一つ一つの曲が個性が際立ってますよね。
渡辺:そうですね。私はデビューの時から、後々みなさんに豪華なって言われるようになって下さった方々との良い出会いがいくつもあって、すごい良い曲とずっと出会って来れたと思うんですね。
今年、この「Sing
and Roses」を作るにあたって、有賀君が中心になってこんなアーティストとのコラボレーションっていうのが良いんじゃないかなっていうことを計画してくれて、でもそれも縁がないと繋がって行かないものですし、出来上がって行くものも、その曲とかそのアーティストとの縁によってパッと咲いていくものと咲かないものがあると思うんですけど、槇原さんを筆頭にまた新しい良い出会いを得ることが出来ましたね。
――どの方の曲もボーカリスト美里さんの歌を愛してる感じがしますね。
渡辺:そういうふうに聴いてもらえたら大成功っていうか(笑)、ほんとにみんなそういうふうに思って作ってくれたと思うんですね。
――よく、僕の歌はこうだからこう歌ってっていう方が多いじゃないですか、でも今回の曲は聴くとみんな美里さんの歌を聴いて愛してきて作ってるんだなと。
渡辺:それはほんと今回の裏コンセプトじゃないけれども、みんなが聴いてきてくれた20年っていう月日を思った時に、私の歌を聴いてましたっていう方達が今度は曲を作ってくれたらどうなるんだろうっていうのはありましたね。
今までは新しい作家の人、小室哲哉さんも伊秩さんとかもそうですけれど、みんなまだ他の人に曲を書いてないっていう状況の中で自分達の世界を作り上げて行こうとしてる時に出会った人達がたくさんいる中で、自分が作ってきたものをずっと聴いてくれてて、そしてまた自分のオリジナルの世界を繰り広げてる人達が、一人は油絵で、一人は彫刻で、一人はパステルでっていうような、いろんな描き方で曲を作って下さって・・・、まさにその通りだと思いますね。
――今回のアルバムのリードシングルとなった「トマト」は槇原さんの作詞・作曲ですが、これはどのようなきっかけからなんですか?
渡辺:マッキーのコンサートのバンドのメンバーが、キーボードの門倉さん以外、全員うちのバンドのメンバーでもあるんですよ。
――たしか有賀さんとか出てらっしゃいましたよね。
渡辺:有賀君と松永さんと柴田君、ギターが山弦の小倉さん、オグちゃんっていう人なんですけど、オグちゃんも以前うちのコンサートをやってくれてましたし、3人は去年、私とマッキーと掛け持ちだったんですよ。だからコンサートと移動の日々で、彼らは特に大変だったと思うんですけど、だからこっちではマッキーがさーっていう話を聞き、たぶんあちらではみさっちゃんがさーって話を聞いていたと思うんですね。
――じゃあ、特に関わりとかはなかった感じ・・・。
渡辺:なかったんですが、今回のアルバムに繋がって行く話なんですけど・・・、去年10月位かな、槇原さんもコンサートをされてて、私もツアーをやってて、うちのメンバーがゴッソリ、次の日移動みたいな感じでやってたんですね。ベースの有賀君のお誕生日が10月14日で、私はツアーもアルバム作りもずーっと一緒にやっているので、何とか彼の誕生日を何とか盛り上げたいって密かに思っていて、フッとスケジュールを見たら、あら、私のコンサートじゃなくてマッキーのコンサートの日だわと思って。
待てよ・・・マッキーのコンサートは門倉さん以外、全員私のバンドのメンバーで、すごい親しい仲だし、「うたの木 seasons」のレコーディングの時には小倉さんにギターを弾いてもらったりもしてるし、小倉さんはマッキーのバンドリーダーでもあるので、「有賀君の誕生日はマッキーのコンサートなんだけど、そこに例えばサプライズで私が行って、マッキーと一緒に企んで有賀君をビックリさせるっていう企画っていうのをやりたいんだけど、そういうノリってマッキーってアリな人なのかな」って言ったら、「いや、アリアリな人だよ」っていう話になり、「そうなんだ、もしお邪魔でなければ私が行って、ちょっと有賀君のサプライズのバースデーをやりたいんだけど」って言ってたんですよね。
「じゃあ、俺が言うよりも本人達同士で話してもらった方が良いから」っていうことで、その時に初めてマッキーと、電話でオグちゃんを通じて話をして、それで「もうずっと学生時代から聴いてましたー」っていう感じで、「あの歌も、この歌もみんな好きでしたー」って話をしてくれたんですね。
「ところでですね。誕生会をそちらでやりたいんですけど(笑)、よろしいでしょうか」って言ったら、「いやーもうー、是非是非やりましょうー」って言ってくれて。
それでライブのアンコールの時に「今日はバンドのメンバーの中にお誕生日の人がいます。さてどなたでしょうー?」って言ったらパンって暗転して、私と有賀君にパンってピンスポットが当たって、私がケーキを運んで来て。黒のパンツスタイルに白いエプロンを着けて、頭に白いヘッドドレスを着けて、メイドさんのような格好をしてケーキを運んで・・・、場所は倉敷だったんですけど、「倉敷のみなさん、こんばんわー」って言って、「ベースの有賀君お誕生日おめでとうございます。渡辺美里です。」って言って登場するという。
――(笑)
渡辺:有賀君以外、照明さんもPAの人も全員知ってて、ドッキリを仕掛けたんですね。そしたら倉敷のお客さんもすごい喜んでくれたし、有賀君もビックリしながら大喜びで、ちょっとウルッと来る感じになって・・・。その2日位前に大阪でコンサートをやって、一旦私は東京に戻ってて、次の日倉敷でマッキーのコンサートがあって、その次の日にまた私のツアーで合流するはずだったんですよ。だから絶対そこにいるはずがない、昨日大阪でサヨナラして東京に戻ってるはずの人がなんでいるの?っていう(笑)。
それも東京でライブをやってたら遊びに来たよっていう感じもあると思うんですけど、倉敷っていう場所も手伝って、ほんとにサプライズでバーステーパーティーを仕掛けて・・・。本番直前までバンドメンバーとマッキーは楽屋が一緒だから、私は別の楽屋で待っているように言われて(笑)、コッソリ見つからないようにしてて、そして本番の舞台上でおめでとうございますと言いつつ、マッキーと初めましてだったんです(笑)。
――そうなんですか!?(笑)
渡辺:だからまだ、出会って一年ちょっとなんですね。だけどマッキーは多分ずっと聴いててくれたから、“みさっちゃん”って思ってくれてるし、そこでコンサートでも盛り上がって・・・その後、お誕生会をした時もみさっちゃん!っていう感じで言われて。その時、一回会って長い時間一緒にお話したのが初めてだったんです。
――ラジオとか聴いていて、長いファンってもう“みさっちゃん”じゃないですか。
渡辺:そうですね(笑)。
――なのできっとそういう感じだったんですね。
渡辺:そうですね、だからもうその呼び方に愛情を感じるというか。人様のコンサートに押しかけて行って、自分のバンドのメンバーの誕生会をおめでとー!って言って、あー楽しいー!と思って、じゃあ、さよならって言って帰って来たんですけど、でもすごい人を喜ばせるっていうハッピーな時間を作るために、これだけみんなが動いて、ウッシッシって思うのって、ほんと楽しいねーっていうところから始まってるので・・・槇原さんとはそういう出会いです。
直接、出会ってからはまだ短いんですけど、そういう楽しいことを企むのがお互いに好きだったので、波動が合ったんですね。
――すごい裏話ですねー。
渡辺:そうですねー。そこで話をしつつ槇原さんも「僕ね、想いがあるんだったらウダウダ思ってないで、伝えた方が良いって思うんで、ちょっと今度渡します。」って言うから、何かしら恋文かしら(笑)って思っていたら新曲だったんですね。
――そうだったんですか。
渡辺:レコーディングは想いだけでは形にならないので、やっぱりレコーディングが出来る状況が整ってからお願いした方が良いのかなっていうふうにも思ってたんですけど、マッキーはマッキーで自分の中で書くっていうふうに思ってくれてたみたいで、それでプロデューサー有賀君が、今回マッキーに曲をと思ってるんだけど、どう?って言うから「あー良いね」っていうところで。
あの時会ってお誕生会一緒にやったし、良いかもー!とか言って(笑)。何となくお互いに良い波動を感じていたから、きっと良いものが出来るんじゃないかなっていう予感もあったし、お願いしようって言って、有賀君が今度は仕掛け人というか、こんな感じでレコーディングしようと思うんだけどって言ったら、槇原さんが「やったー!」って言って(笑)、何か描いてたものがあったみたいで、だからお互いに両想いだったんだけど、今回有賀君っていう人を通じて、お誕生会をきっかけに、なんかこうお互いの心がグッと近くなって出来た曲が「トマト」ですね。
――槇原さんが提供した新曲が出るって聞いた時に、ありそうでなかったなと思いましたね。
渡辺:ありそうでなかったって感じですか?
――あぁ、そういえばっていう気はしましたね。すごくせつないけど前向きな曲になりましたね。
渡辺:そうですね。だから今まで歌って来た歌を、多分マッキーなりに思い出して、今のみさっちゃんにこれが似合うんじゃないかっていうか、せつない歌なんだけども、こういう歌を・・・っていう想いが凝縮されてると思うので。
――あれは10代には歌えない歌ですよね。
渡辺:いやー無理ですね、きっとね。20代でもそこまでの精神性に行き着かないような気がしますね。
♪さりげなく伝えられる あなたのようになるからね♪って言えない思う。
くぅー!何よー!!って(笑)思うかもしれないじゃない?女性だから。
――ですよねー(笑)。
渡辺:でも、あなたは幸せになってねって思える精神性みたいなものは、大人じゃないと歌えないかもって思いますよね。
――今の美里さんだからこそ歌えて、でも前向きなんですよ。槇原さんはきっとそれをわかった上で書いてるんだなと思いましたね。
渡辺:出会うべくして出会った曲でもありますし、もっと前に会ってたかもしれないのに、このタイミングできっと一緒に何かを作りなさいっていうことだったんだろうなぁと思いますね。
――今回、アルバムの収録曲はどの曲もそれぞれの核を成している気がするんです。例えば「No Side」とかも西武ドームがあったから出来た曲だし、なるほどなっていう気がしたんですよね。今回の「No Side」は美里さんが詞を書かれてますが、これは西武ドームのライブが終わってどんな気持ちで書かれたんですか?
渡辺:スタジアムの20年っていうのに幕を下ろすことによって寂しくなっちゃったりとか、はぁ・・・やり終えたっていう感じの(笑)、オリンピックで言うところの燃え尽き症候群みたいになるのかなと思ったら逆で、本当に完全燃焼出来て、すごくスカッと清々しい気持ちになれたんです。よしっ!次、何しようかな!っていうエネルギーが湧いて来るような、ものすごい力を感じることが出来たんですね。
そう思った時に、みんなが祭りの後の寂しさっていうものよりも、終わりは始まりで、終えることによってまた一つ次に向かって行けるっていうような、人間関係でそういうことを思えるっていうこともまた一つ成長だと思うんですけど、そんな歌が作れたら良いなと思って、♪この先二人を待ってるゴールは 悲しみや さよならじゃない♪っていう歌詞は、この20周年を終えて、また次の夏に向かって行く時に、これがもう全てのゴールではないので、私にとってもそれが恋愛する二人と自分自身とが重なって行けると良いかなって思って。
そんなふうに作ったのが「No Side」なんです。
――静かな決心みたいな感じですね。
渡辺:そうですね。
――聴く前は激しい歌になるのかなって思ってたんですよ。実際に聴いた時、静かな中にも心にギュッと決心してるなって、あぁ、なるほどなって思いましたね。
渡辺:槇原さんの曲もそうだし、TAKURO君の曲も素敵な曲だなって思うんですけど、さすがって思ったのは千里さんが作ってくれた「Oh! Hardest night」と「メロディ」っていう曲。20年前の「悲しいボーイフレンド」という曲を筆頭に、「夏が来た!」とか「10years」などの曲を一緒に作って来た千里さんならではの目線だとか・・・、また舞台に立ってる時以外の私を、友達として、また先輩として、アニキとして見てくれている・・・、そんな千里さんが作ってくれたこの2曲もすごく好きな曲ですね。
――今回はGLAYのTAKUROさんの楽曲提供はちょっと意外な印象もあったんですけど、この曲「Kiss from a rose」はアルバムのタイトルもシンクロするじゃないですか、何か美しい気持ちになるなぁと思いつつ聴いたんですけれど、これはどういうところからこういう曲にしようと思ったんですか?
渡辺:アルバムのタイトルを自分の中で決めてたので、「Sing and Roses」の“Roses”に相応しい曲があれば詞を書きたいなって思ってた時に、TAKURO君は今まで直接お仕事をしたことがなかったんですけど、ある場所で偶然会った時に、函館にいる頃から西武球場にライブを見に来てくれてたというお話をしてくれて、音楽の趣味とか趣向が違う雰囲気なのかなと思ったら、すごい詳しく聴いてて下さってて。
彼らが大きなコンサートを初めてやるっていう時にビックリさせたいからっていうことで、ラジオ局のスタッフの人がTAKURO君に向けてメッセージを、是非送ってあげてほしいっていうことでコメントをしたんですね。そしたら彼らメンバーも含めて大喜びしてくれたっていうところで、好きとか聴いてたっていうような想いが全部繋がって行った感じなんですね。だから意外かもしれないですけど・・・。
――偶然は必然ってみたいな感じですかね。
渡辺:そうなんですねー、うん。
――今回、すごい縁があって一つのアルバムになった感じがしますね。
渡辺:そうかもしれないですね。
――このアルバム最後の曲「夢のあいだ」、これが次の美里さんを語ってる感じがしますね、
渡辺:この間の夏のコンサートから次に向かっての架け橋、♪虹の向こう側には 何があるの♪っていう歌詞の、虹がかかったところの次が・・・っていうような映像をイメージして作りましたね。
――これは出来るだけたくさんの人に聴いて頂きたいアルバムだなって思いましたね。
渡辺:そうですね、きっと音楽と出会った頃にっていうか、ティーンネイジャーの時に受けた時の衝撃って、20代、30代の時に音楽に出会う時とはまた違ったものがあったと思うんですね。
けどその時に描いていた、例えば自分が30代になって40代になって50代になって・・・っていうイメージを、明らかにそのまんま描いたとおりに行ってる人って少ないと思うんですね、私も含めてですけど。
私は歌いたいっていう想いでプロの歌手にはなっていますけど、でもなりたい自分とか描いているものに近づきたいと思って、今も走っているんですけど、きっと答えって早く知りたいから結果も早く出したいっていうところがあると思うんです。
でも今はまだ夢のあいだって思えば、努力は怠ってはいけないと思うけど、でもそこに向かって行く、その夢の架け橋の中の今はこの辺りかな?っていうような想いで行けたら良いなっていう。
そういう想いで音楽を聴いてくれてる人達・・・、それぞれサラリーマンの人もいれば、アーティストの人もいれば、お母さんをしてる人もいるだろうし、バリバリ働いている人達も含めて、何かフッとした瞬間に、今はまだ夢のあいだって思う気持ちっていうか、私自身はスタジアムを終えて、やり終えたというよりもこれからまたその次に向かって行く、その先に向かう途中なんだって思えてならないんですね。
――この曲を歌ってくれたのは勇気が出ましたね。まだまだよって、これじゃあ終わりじゃないのよって言ってもらえるのは、あぁそうだよねっていうのはありましたね。
渡辺:私自身も、何かそういうことを自分に歌いたいなぁっていう想いになった一曲ですね。
――トータル的なことになってしまうんですけど、このアルバムの中に一番込めたかった想いっていうのはどんな想いがありますか?
渡辺:うーん、一言で言うのは難しいですね・・・。自分のこともそうだし、相手のこともそうだし、相手っていうのは一人だけじゃなくて、でも何か大事に思う、大事に生きるっていうことを歌いたいなと思いました。
私自身も忙しさに任せて自分の事は二の次、三の次っていう感じで、時として雑になっちゃう時もあるんですけど、でも一生に一度しかない今とか、この2005年の秋、冬っていうことを思ったら、何か大事にしたいなって思えて。
それは自分自身の気持ちもそうだし、一つ一つの仕事もそうだし、一緒に関わって行く人達もそうですけど、どんなささやかなことでも大事にするって、ありきたりのようだけどなかなか出来ないと思うので、大事に思うことを歌えればと思います。
――なるほど、それではアルバムの話から少し変わってプライベート的なお話も伺いますが、今、音楽以外で興味を持っているものはありますか?
渡辺:興味の方向は限定しないようにしてるんですね。政治、経済、歴史、音楽、映画と全てが繋がって行くと思うから。
その一つの言葉とか一つの歌を作ろうと思った時に、そこにまつわる音楽の歴史もそうだし、未来もそうだし、世の中的な動きもそうだしっていうのが、何か全部が繋がって行くから、一つのことだけ知ることももちろん大事ですけど、いろんなことを知っておかないと不安になるし、勉強したいなって思うんですね。
今は勉強したいかな。何々だけってことじゃなくて、イタリア語もやりたいし、「M・Renaissance〜エム・ルネサンス〜」っていうタイトルを付けたこともあって、ちょこちょこタイミングが合えばフィレンツェとかに行って、「春
(プリマベーラ)」っていう名画がありますけど、そのアーティストに対してこの人の生い立ちとかも含めて知りだすと、レオナルド・ダ・ヴィンチの「ダ・ヴィンチ・コード」とかもそうですけど、なるほどこの人はこういう精神性でこういう謎めいたものを作っていったんだとかっていうことが、一個気になるとすごく知りたくなるので。
――各方面にもアンテナを張りめぐらす感じですね。
渡辺:そうですね、向けてるつもりではなく、何かあれっと思うとビビビッとそっちの方向に。 「Blue Butterfly」っていうアルバムを去年作ったんですけど、今、山形の方から西表山まで青い蝶々が飛んで行って縦断してるんですって、ちょっと日本が熱帯化してるっていうのがあって。その蝶々がブルーも混ざっててすごい綺麗な蝶々なの。日本に生息するはずがなかった蝶々がどんどんいっぱい来てるんですって。
「Blue Butterfly」っていうタイトルを付けたからこそ、蝶々が山形から西表山まで縦断して飛んで行くってすごいなぁってニュースとかも気になったりするし。そのアルバムを作らなかったら、それだけで終わってたかもしれないんだけど、蝶々がブルーばっかりになったらどうしようとか(笑)、美しいかもしれないけど環境として考えたらちょっとコワイのかもなぁとか、いろいろ思ったりするんですけど。
――そういうふうにいろいろなところにアンテナを立てて・・・。
渡辺:どんどんいろんなことが面白いなぁと思いますね。あとはまだ観てないんですけど「チャーリーとチョコレート工場」を大江さんに面白かったよと勧められて、観たいなぁと思いつつ、ハマってるのがダークチョコレート。カカオのパーセンテージがすごい高いチョコレートで、あんまり甘くなくて苦いんです。
いろいろおいしいチョコレートはあるんだけど、去年かな、ピエール・マルコリーニっていうチョコレートを食べて・・・、男性なのかどうかも知らないけれど、こんな味を出すピエール・マルコリーニと結婚したい!(笑)と思ったぐらいおいしいと思ったんですけど、ピエール・マルコリーニはなかなか買えないので(笑)、今はカカオのパーセンテージが高いチョコレートに気持ちが行ってるんですね(笑)。
――なるほど(笑)、いろいろ飛んでる感じなんですね(笑)。それではお話は変わって渡辺美里にとって今、一番、大事なものはなんでしょうか。
渡辺:大事だなぁと思うことは、いっぱいあるんですよね。 大事だなぁと思うことがたくさんあるっていうのはすごく幸せで、今年の西武のコンサートの時に、今までこの人達と一緒にお仕事したなって思う人達をテロップで流したんですけど、本当にたくさんの人達と一緒に仕事して来たんだなぁって思って。
そこまで深いお付き合いじゃない人達を入れたらもっとすごい数になると思うんですけど、大事だなぁと思う人達だけでもあれだけの人数がいたから、まず人との出会いっていうのは私にとってはなくてはならないものだと思ったし、それは一年や二年で出来ていく繋がりではないからこそ、マッキーも含めてだけど、ずっと聴いててくれた時間があって今があるんだど思うんですね。そういう人との繋がりっていうのかなぁ、あとはその気持ちのやりとりっていうこと、ただ単に出会うだけじゃなくて、繋がってきてるって実感出来ることが自分にとってすごい大事だし。
あとは月並みかもしれませんけど、一番近くにいるスタッフや家族、そしてもちろんファンの人達。歌を感じたいと思ってくれてる人達の想い・・・、きっと北海道からも、九州・熊本からも、大阪からも会いたいと思って来てくれる人達がいるだろうし、行きたいけど行けないって思ってくれてる人達も全国にたくさんいると思うから、そういう想いっていうものはすごく私にとって大事です。
直接見えて来なくても見えるものですね、それは。
――じゃあ、一番大事なものは“人の想い”ですね。
渡辺:そうですね。
――それでは最後にみなさんに向けてメッセージをお願いします。
渡辺:自分自身の気持ちを満足させてくれたりとか、よく言われる癒しであったりとか、元気になるとかって、人によってはお酒かもしれないし食べることかもしれないんですけど、でも何かこうフッと「あっ、そうか」って思えるヒントになるようなきっかけ作りのような楽曲が今回の「Sing
and Roses」には11曲入ってると思います。
多分、あつらえたようなっていう楽曲になってくれるものがきっとあると思うので、今回の「Sing and Roses」の1曲1曲が良い出会いの曲になると良いなと。このインタビューを読んで下さった方にとって、そういうきっかけになるアルバムだと思いますので、是非、聴いてみて下さい。
あとは直接会うともっと伝わると思うので・・・、今回のツアーはすごくいろんな所を回りますので、是非ライブに会いに来て下さい。
――ありがとうございました。
渡辺:ありがとうございました。
(Text By Takahashi)