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遠野物語 全訳注(講談社学術文庫)
柳田國男/〔著〕 新谷尚紀/訳
目次
平地人を戦慄せしめよ
遠野郷は山々にて取囲まれたる平地なり 山々の奥には山人住めり 奥山に入り茸を採るとて小屋を掛け宿りてありしに 部落には必ず一戸の旧家ありてオクナイサマと云ふ神を祀る 旧家にはザシキワラシと云ふ神の住みたまふ家少なからず ふと裏口の方より足音して来る者あるを見れば亡くなりし老女なり 村々の旧家を大同と云ふは大同元年に甲斐国より移り来たる家なればかく云ふ 早地峯より出でて東北の方宮古の海に流れ入る川を閉伊川と云ふ 遠野郷の民家の子女にして異人にさらはれて行く者年々多くあり 猿の経立御犬の経立は恐ろしきものなり 驚きて見れば猿の経立なり 死助の山にカツコ花あり遠野郷にても珍しと云ふ花なり 閉伊川の流には淵多く恐ろしき伝説少なからず 川には河童多く住めり猿ケ石川殊に多し 和野村の嘉兵衛爺雉子小屋に入りて雉子を待ちしに 山中の不思議なる家をマヨヒガと云ふ 阿倍貞任に関する伝説は此外にも多し 娘此馬を愛して夜になれば厩舎に行きて寝ね終に馬と夫婦に成れり カクラサマの木像は遠野郷のうちに数多あり〔ほか〕

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