歴史を笑え、と幼い詩人に祖父は教えた
サイの河原に、早池峰を仰ぐ児らがいた
ナマハゲの鬼は男鹿の山から来た、という
日時計の向こうに、縄文の夕陽が沈んだ
大同二年に、窟の奥で悪路王は死んだ
その晩、鮭の大助は月光川をのぼる
山に生かされた者らよ、と石の環が囁く
鉱山で、山の神の代官たちが福音を説いた
ネブタ囃しに、遠く異族の血が燃えて騒ぐ
不意に、埋もれた記憶が黄昏の底に甦る
北からの呼び声に、いま岩谷の扉が開かれる
箕を携えた姫が、大同の庭に降り立った
さらば芭蕉、と囁きかける川風を聴いた
雪の野づらに、木地屋の夢が紡がれる
たちのぼる煙の下に、山の人生が転がっていた
なめとこ山の夜、熊たちの祭りがはじまる
断章 呟きの声、とりあえずの終わりに
エピローグ あすの東北学のために
増補1 幻像としての常民
増補2 山師の子どもはやがて、山に還る
増補3 巫女になった夜に
増補4 樹をあるく旅から―タブの杜を訪ねて
増補5 旅と聞き書き、そして東北学
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